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2011年8月号vol.409

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私の勉学時代

高知大学長 相良祐輔先生に聞く

たくさんの本を「乱読」して
自分自身を深く知り
たくましい心を育てましょう
高知大学の源流は、1874(明治7年)の陶冶学舎にまで遡ることができる、歴史ある大学です。
2003年には高知大学と高知医科大学が統合され、翌年より国立大学法人として新たにスタートしました。今回は、「4つのC」をキャッチフレーズに掲げ、様々な取り組みにチャレンジしている同大学の学長である相良先生にお話を伺いました。先生の「乱読」体験、私たちもぜひ参考にしたいですね!

■Profile
相良祐輔(さがら・ゆうすけ)

1935年広島県生まれ。医学博士。
1963年岡山大学医学部を卒業後、69年より同大学医学部附属病院で助手を務める。80年より米国アルバートアインシュタイン大学客員教授。85年より高知医科大学医学部教授を務め、98年より同大学副学長(附属病院長を兼務)。2003年10月より高知大学長。翌年4月より国立大学法人高知大学長に就任。
専門分野は産科婦人科内分泌学、婦人科免疫学。日本産科婦人科学会、日本母性衛生学会に所属。


「ならない」ものは「ならない」

私は広島県比婆郡比和町(現・庄原市)生まれです。父は小学校の教員など、教育に携わる仕事をしていました。行儀や礼儀作法など、躾には大変厳しかったですね。食事の際の姿勢や箸の持ち方など、「品のある生活態度」を取るよう育てられました。
私たちの世代では、どこの家庭でも当たり前だったと思います。父からは「理屈ではなく、世の中には、人としてしてはいけないことがあるのだ」ということも教わりました。「なぜしてはいけないのか」は大人になって知ればいいことで、まずは「ならない」ものは「ならない」のだと理解するよう言われました。また、「10歳以上になって、私が話したことを理解できないようでは困る」とも言われました。10歳にもなれば、相手の話すことをしっかり聞き、理解できるはずで、そうならなければならないというわけです。このように、人としての土台となる部分は、父からしっかりと教わりました。

「乱読」に没頭した少年時代

私は、わりと早熟な子どもだったと思います。おそらく子どもの頃から、家にある大人向けの本を「乱読」していたからでしょう。父の本棚には多種多様な本が並んでいて、私はそれらをほとんど読み尽くしました。小学3、4年生頃から大学1年生までは、文学作品から漫画まで、あらゆる本をただひたすら読んでいました。
今でも印象に残っている作品は、ヘルマン・ヘッセ(*1)の『デミアン』や『車輪の下』、『青春彷徨』、ヴェルレーヌ(*2)の詩集、ロマン・ロラン(*3)の『ジャン・クリストフ』、クローニン(*4)の『城砦』などですね。特に『デミアン』を読んだ時の体験は、忘れることができません。主人公のシンクレールは、この本を読んだ当時の私と同じく、10歳の少年でした。私は彼に自分自身を重ね、まるで自分の物語が展開されているかのように感じながら読み進めたものです。そして、物語の世界に没頭するあまり、現実との境目が曖昧になってしまいました。ただそのうちに、物語の人物と現実の自分との間には、違いがあることがわかってきます。自分と、物語の中で経験した他人の人生とを比較して、傷ついたり落ちこんだりすることもありました。しかし、こうした読書の経験によって、私は自分自身をよく知ることができ、生きていくために必要な心の強さや知恵を身に付けることができたと思います。
私には7つ年上の叔父がいました。彼から受けた影響も大きかったですね。叔父からは「これと心に決めた作家を見つけ、その作家の全集を読め」と言われました。結局、これと思う作家を決められずに、乱読を続けることになったのですが(笑)。父からは、本の扱いについても厳しく躾られました。本を放り投げたり、開きっぱなしにしたりすると、ひどく怒られて、本棚に触れることを禁じられたこともあります。

*1 ヘルマン・ヘッセ…1877〜1962年。ドイツの作家。1946年『ガラス玉演義』などでノーベル文学賞を受賞。日本では『少年の日の思い出』が検定教科書に掲載されており、多くの中学生に読まれている。
*2 ポール・ヴェルレーヌ…1844〜96年。フランスの詩人。アルチュール・ランボーらと同じ象徴派とされ、540編もの詩を残した。
*3 ロマン・ロラン…1866〜1944年。フランスの作家。1915年に『ジャン・クリストフ』によってノーベル賞を受賞。
*4 A・J・クローニン…1896〜1981年。スコットランドの作家。医師でもある。代表作に『帽子屋の城』や『天国の鍵』など。

勉強がおもしろかった

私はあまり勉強をしませんでしたが、学校の授業は「おもしろいなぁ」と思っていました。「どうしてこのような答えが導かれるのだろう」と考えるのが好きでしたね。高校時代は物理が大好きでした。また、読書だけでなく、友だちともよく外で遊びましたよ。山を駈けめぐりましたし、川に飛び込んで溺れそうになったこともあります(笑)。やんちゃな少年時代を過ごしました。
勉強に関しては、父は私の自主性に任せ てくれていました。「勉強しろ」とは言いませんでしたね。口うるさく言わなかったのは、今思えば父の教育方針だったのではないでしょうか。それに、高校受験、大学受験の前には、勉強の進み具合を私に尋ねて、アドバイスをしてくれました。中学3年生の1月頃に、初めて「受験勉強はどこまで進んでいるのか」と言われた時は大変驚きましたね。それまで、父が私の勉強に関心があるとは思っていませんでしたから、とてもうれしかったです。高校入学の際、父から贈られた「真実に対しては恒に謙虚たれ」というメッセージが添えられた英語の辞書は、今も大切に持ち続けています。

出会いに恵まれた

私は広島県立上下高等学校へと進学しますが、そこで生涯忘れられない恩師と出会いました。3年間私のクラスの担任であり、また私が所属した演劇部の顧問を務めておられた、松森先生です。ある時、先生が「ラジオの放送劇とテレビドラマの、どちらが好きか」と演劇部員に尋ねられたことがありました。テレビと答えた部員が多かったと思います。私は「絶対にラジオです」と主張しました。「音や声だけのラジオの放送劇は、聴く人の持つ記憶や経験によって、同じシーンでも頭に思い描く情景が異なります。ですから、テレビよりもラジオの方がおもしろいと思います」と。私は乱読の経験から、本の中シーンから情景を想像することは、素晴らしいことだと思っていました。ですから、制作側が作った映像を押しつけられる映画やテレビよりも、ラジオの方が本に近くておもしろかったんです。生意気な主張だったと思うのですが、そんな私の意見を、先生は興味深く聞いてくださいましたね。先生にはとてもかわいがっていただきました。
高校時代、私は医師になろうと決意しました。これには、母方の祖父が医師だったことが大きく影響していたと思います。幼い頃、祖父の家で一年間過ごした時期があり、私にとって医師は身近な職業でした。高校時代、法律家やシナリオライター、作家など、憧れた職業はいろいろありましたが、考えた末に医師になる道を選びました。
岡山大学の医学部に進学した後は、初めは外科医になろうと思っていたんですね。ですが、インターンで産婦人科へ行った際に、その考えを変えました。出産に立ち合ったのが、そのきっかけです。命の誕生を目の当たりにして衝撃を受けました。「命が命を産むというのは、何とドラマチックなことなのだろう!」とすっかり感動して専攻を産婦人科に定めました。大学時代にお世話になった吉田先生には、私が開業医ではなく、研究の道へ進む時に、その後押しをしていただきました。「開業はいつでもできる。研究をきちんとした医師は、開業しても常に誠実な医療が行えるものだから、君は研究をしなさい」と言ってくださったんです。このように、二人の恩師を始め、父や祖父、叔父など、私にはとても良い出会いがいくつもありました。

「乱読」のすすめ

これから大人になっていく過程で、皆さんは様々な経験をするでしょう。楽しいことやうれしいことばかりではなく、つらいこと苦しいこともあると思います。つまずくことがあった時、これらの困難を解決するのは、他ならぬ皆さん自身だということを知っておいてほしいと思います。誰かの力を借りたり、回り道をしたりすることはあっても、結局は、道は自分自身の力で切り開いていかなければなりません。そのための力は、読書によって養われると私は考えています。私が少年時代に体験したように、本の中の登場人物と自分を重ねて、様々な人生や感情を経験し、それでも本の中の人物と自分は違うのだということに気づくことはとても大切です。読書を繰り返すことで、皆さんも気づかないうちに、精神が鍛えられるはずですよ。大学2年生くらいまでは、あらゆる作家の本をぜひ「乱読」してほしいと思います。
最後に、保護者の方へも一言。現在、子どもたちを取りまく環境は複雑ですね。彼らにとって刺激的なことも多いでしょう。
だからこそ、保護者の方には「今、やっておかないといけないことは何だろう」ということを、お子さんにしっかりと伝えてほしいですね。そして、お子さんが、お父さんやお母さんの言うことを受け取って理解するためには、やはり読書でその力を養うことが効果的だろうと私は考えます。お子さんへ、ぜひ読書をすすめてください。




コラム
 

高知大学「4つのC」
2004年に国立大学法人となった高知大学は、大学の在り方を改めて見つめ直すためのキャッチフレーズ「4つのC」を掲げています。
絶えず変化する社会が大学に求める変革(Change)に対応することを絶好の機会ととらえ(Chance)、失敗をおそれずに挑戦し(Challenge)、社会で活躍できる人材を輩出する(Create)ことを目標に、総合的教養力を養うための教育体制を、特別教育プログラムなどを通じて進めています。
また、大学院でも、再度教養科目を履修しながら専門分野の研究をさらに深めていけるようなプログラムが組まれています。「文理融合」の大学院で、知識に偏りのない人材を育てることに力を入れていることも魅力の一つです。



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